のような仕事で、実は相当の危険がある、やってみることは雑作がなくて、やり了《おお》せた後に祟《たた》りが来ないとは言えない、金銭に積ってはいくらでもないが、ある方面の神経を焦《じら》すにはくっきょうな利目《ききめ》のある仕事だ」
「そりゃいったい何だ」
「実はこういうわけなのだ、上野山内の東照宮へ忍び込んで……じゃない、闖入《ちんにゅう》してだ、神前の幣束《へいそく》を奪って来るのだ、幣束に限ったことはない、東照権現の前にある有難そうなものを、すべてひっくり返して来るのだ、それを、こっそりやってはいけない、面白そうにやって来るのだ、東照権現が有難いものには有難いが、有難くないものにはこの通りだというところを見せて来ればいいのだ、そのお印《しるし》に幣束を持ち帰って来るのだ。事は児戯に類するが、その及ぼすところに魂胆《こんたん》がある」
南条はこう言いました。何のことかと思えば、徳川幕府の本尊様である東照権現の神前に無礼を加え来《きた》れという注文であります。なるほど、一派の志士には以前から、こういうことをやりたがっている人がありました。頼山陽の息子さんの頼三樹三郎《らいみきさぶろう》
前へ
次へ
全187ページ中59ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング