から、岩見銀山《いわみぎんざん》の薬を少しばかり買って来て頂戴な」
と言いました。
「はい、承知致しました」
岩見銀山の薬が買いたければ、特に改まって酒屋の御用聞に頼むまでもあるまいに、先刻も女中が鼠を伏せて頻りに騒いでいたが、今もわざわざ岩見銀山を注文するのは、よくよくこの屋敷では鼠で困らされているのだろうと思いました。そこへ以前の女が銀瓶に水を満たして持って来ると、
「どうも御苦労さま」
お松はそれを受取って、もとの廊下を帰って行きます。忠作も、お松から岩見銀山を買うべく頼まれた小銭《こぜに》を持って屋敷の外へ出てしまいました。
兵馬が未《いま》だこの屋敷へ帰らず、忠作がそのまわりをうろつかない以前に、肩臂《かたひじ》いからした多くの豪傑がこの屋敷へ入り込みました。集まるもの十五六名。
例の南条力が牛耳《ぎゅうじ》を取っていて、このごろ暫く姿を見せなかった五十嵐甲子雄も、その側《わき》に控えています。
「さて、諸君」
南条が議長の役を承って、
「ここに一つ、諸君の志願を募りたいことがある、それは勿体《もったい》ないような仕事で、その実さまで勿体ないことではなく、子供だまし
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