るさむらいの言葉を聞きました。そのさむらいは何者であるか一向わからないが、酒を飲みつつ威勢のよい話をしているうちに、薩摩ということが折々出るから、そこで何となく聞捨てにならなくなって――
「左様、なんと言っても薩摩で第一の人物は西郷吉之助だろう、西郷につづく者は……西郷につづく者は、ちょっと誰だか見当がつかない」
「西郷はエライには違いない。土佐の坂本竜馬が、西郷の度量|測《はか》るべからず、これを叩くこと大なれば、おのずから大に、これを叩くこと小なれば、おのずから小なり、と言って舌を捲いているところを見ると、かなりの人物であることがわかる。中岡慎太郎の手紙でも、この人学識あり、胆略あり、常に寡言《かげん》にして、最も思慮雄断に長じ、たまたま一言を出せば確然|人腸《じんちょう》を貫く、且つ徳高くして人を服し、しばしば艱難を経て頗《すこぶ》る事に老練と、讃《ほ》め立てているところを見ても、かなりの大豪傑であろうと思われるが、しかし、薩摩において西郷ばかりが人物ではあるまい、小松|帯刀《たてわき》や大久保一蔵は、西郷に優るとも劣ることなき豪傑だという評判じゃ」
「そりゃあ西郷以外にも豪傑が
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