「それでなんですか、山崎先生、あなたも、あの薩摩のお屋敷の様子を、くわしくお調べになりたいのですか」
「そうだ、それについてお前の知恵を借りたいものだが、何とかしてあの屋敷の中へ入ってみる手段はないものかな」
こう言われて七兵衛は、篤《とっく》りと考えてみる気になりました。暫く考えていたが、やがて仔細らしく、
「先生が、あの屋敷へ入り込むというのは容易なことじゃござんすまい、私も少々勝手の悪いことがございますのです、ここに一つ思い浮んだのは、ほかじゃございません、甲州の山の中から出て来た勝っ気で勘定高い小倅《こせがれ》が一人、あの近所に住んでいるんでございます、こいつが田作《ごまめ》の歯ぎしりで、ヒドク薩州のおさむらいを恨んでいるんですから、あいつをつっついて、当らしてみたらどうかと思うんでございます……慾こそ深いが、目から鼻へ抜けるような小倅でございますから、つかいようによっては、ずいぶんお役に立ちましょう」
話半ばのところへ、お角が帰って来ました。
「七兵衛さん、お待たせ申しました」
「どうでした、子供は見つかりましたかね」
「いいえ、見つかりません。何しろ、動物《いきもの》
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