の小屋の親方というのが至極|別懇《べっこん》なんでございますから、楽屋で休みながら、お話を伺おうではございませんか」
「なるほど、それもよかろう」
いったん通り過ぎた女軽業の小屋の前へ、二人は立戻って来て、
「七兵衛、一体こりゃ何だ、この清澄の茂太郎というのは」
「これについては、一通りの魂胆《こんたん》があるんでございます。清澄の茂太郎というのは、房州から仕込んで来たこの小屋の呼び物で、ずいぶん客を呼んでいたものですが、このごろ、その呼び物が逃げ出してしまったんですな。逃げた顛末《てんまつ》は、私がよく存じておりますが、女同士の鞘当《さやあ》てというところがおかしいんで、両方でイガミ合っているうちに、肝腎の当人が、行方知れずになってしまったんでございますよ。当人の茂太郎というのが、二人の女を出し抜いて、近所の馬を引張り出して、どこへ行ってしまったか、いまだに行方がわかりません。何しろ呼び物でございますから、こんなことをして三日の申しわけをしておくんでございます」
七兵衛は山崎を案内して、路次から楽屋の方へ廻りました。お角は留守でしたけれど、女どもが取持ちをします。
二人はそこで
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