が、いったい、その巨根というのは何者だ」
「それは三田の四国町あたりに巣を食っている」
「なるほど」
「つまり、いたずら者の本家本元は薩摩だ、薩摩というやつは実に不埒千万《ふらちせんばん》なやつだ、その薩摩を取って押えて、ふか[#「ふか」に傍点]したり、焼いたりしてしまいたいものだ」
「なるほど」
 南条はなるほどと言って、妙な笑い方をしました。
「薩摩を掘り返して、ふか[#「ふか」に傍点]したり、焼いたりして食ってしまわなければ、江戸の市中は鎮《しず》まらん」
 山崎が、今にもふか[#「ふか」に傍点]したての薯《いも》を食ってしまいそうなことを言うと、南条は皮肉な面をして、
「しかし、七十万石の薩摩薯だから、ふか[#「ふか」に傍点]しても、焼いても、かなり食いでがあるなあ。第一、ずいぶんあっちこっちへ蔓《つる》が張っているだろうから、掘り返すだけでもなかなか骨の折れる仕事じゃ」
「我々の仕業は、ただ蔓を手繰《たぐ》ってみりゃいいのだ、手繰ってみると、思いがけないところへその蔓が張っているから妙だ、本所の相生町あたりまで、その薯蔓が伸びているからなあ」
 山崎は胡坐《あぐら》をかき直し
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