存外、いたずら者が多いから、当分は帰らぬことになりましたわい」
「ハハハ、どこへ行っても当節は、いたずら者が多くて困りますな」
「仰せの通り。上方のいたずら者は禁廷のお庭の前でいたずらをする、江戸のいたずら者は将軍の膝元をつついてふざける、なかにはものずきなのがあって、拙者如きの首まで欲しがる奴があるから、全くやりきれたものではない」
 山崎はこう言って自分の首筋を撫でて見せると、南条は抜からぬ面《かお》をして、
「実際、あぶないものさねえ」
と言いました。
「あぶないことこの上なし、今の江戸は将軍家がお留守で、お膝元の警備がゆるんでいるところにつけ込んで、たち[#「たち」に傍点]のよくないいたずら者がウヨウヨしている」
「それとても、たかの知れた浮浪人の仕業《しわざ》ゆえに、大したことは、ようせまい」
「ところが、事体《じたい》は意外に重大で、浮浪人の後ろには、容易ならぬ巨根《おおね》が張っている、その根を断つにあらざれば葉は枯れない。どうです南条君、その巨根をひとつ掘り返してみたいものだが、手を貸して下さるまいか」
「拙者共でお役に立つならば、ずいぶんお手助けを致すまいものでもない
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