喜の家の主人雇人までがくっついて、ちょうど三仏堂の前まで来た時、その声を聞いて米友が、屹《きっ》と後ろを振返りました。
すわ、何事! と思ったのは、前から事のなりゆきを知っているものばかりではありません。
待っていた! と言わぬばかりに宇治山田の米友は、九尺柄の十文字の槍を地に突き立て、三仏堂の前に蟠《わだかま》りました。その体《てい》を見ると、槍持の奴の癇癪《かんしゃく》が一時に破裂して、
「野郎、その槍はどこから持ってきた」
「鈴喜んちの庭から持って来た」
米友はあえて驚かない。
「野郎、誰にことわって持って来た」
「屋根の上の猫と、庭にいた鶏にことわって持って来た」
「野郎、野郎」
槍持の奴は、にぎりこぶしを両方から握り固めました。
「何が野郎だ」
米友は短い両の足を、程よく踏張《ふんば》りました。
「よこしゃがれ」
槍持の奴は、米友をけし[#「けし」に傍点]飛ばそうとかかると、
「いやだい!」
身体をこころもち反《そ》らせて、かかって来た槍持を左の手で、ひょいと横の方へ突きました。そこで槍持の奴が、はずみを食って脆《もろ》くも右の方へゴロゴロと転がったから、見てい
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