の香りがしました。それはあまりに芳烈な清酒の香りであります。
 思いがけなく眼をあいて見ると、いくらも離れないところの松の木蔭で、お徳が火を焚いていました。手頃の木の枝を三本組み合わせて、それに土瓶をつるして、下に枯葉を置いて程よく火を焚いているのは、その土瓶をあたためているのです。いつのまに用意して来たか、それとも前の日あたりにこの林へ隠してでもおいたのか、土瓶の中には黄金色の清酒《すましざけ》が溢れるほど満ちていることは、その香りでわかります。その焚火と向い合わせに、背中から下ろした蔵太郎を坐らせて、余念なく火を焚いていたが、こちらを向いて、
「もし、お目ざめならば、一口召上って下さいまし」
 こう言われてみると、秋の日に晴れて松茸狩《まつたけがり》に来たもののような気分です。
「どうしてまたこんなところまで、酒を持ち込んで来たのだろう」
 竜之助はそれを訝《いぶか》りながら、懶《ものう》げに起き直ろうとする鼻の先へ、例の土瓶と小さな茶碗をもって来ました。
「さだめし御不自由でしょうと思って、昨日のうちに、お酒とお米を少しばかりここへ持って来ておきました、山を通る時に松茸もありまし
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