を米友が、救い出そうとするつもりか知らん。
 例の不動尊の画像は刀でも差すように、腰へしっかと挿《はさ》んで、藪の中にある大木へ攀上《よじのぼ》りました。その大木の上から見下ろすと、鈴喜の家の庭から、開け放した間取りまでが手に取るようです。
 庭は思いの外ひっそりとしていたが、その一方の隅の楓《かえで》の木の下に、後ろ手に結《ゆわ》かれているのは建具屋の平吉という人らしい。座敷の上には、お歴々の遠乗りの連中が食事の最中と見えて、誰も平吉を顧みる者がない。槍持の奴《やっこ》の姿も見えなければ、仲間連中も一人としてその番をしている者はありません。ああして木の根へ括《くく》っておけば、あえて番人を附ける必要はなかろうけれど、うっかりしているのは、問題の十文字の九尺柄の槍です。あれほど大事な槍が、ここでは無雑作《むぞうさ》にその楓の木へ、横の方から立てかけられてあるだけです。大木の上から事の体《てい》を一通り見下ろした米友は、その無雑作に立てかけられた十文字の九尺柄の槍を見ると、むらむらと悪戯心《いたずらごころ》が起りました。
 問題の中心はあの男でなくて、あの槍であると思いました。それにから
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