たもんです。それがこんなことになったと言って、どうして私はおかみさんに合わす面《かお》がありましょう、金さん、お前が附いてながら、早く連れて帰ってくれさえすればこんなことになりゃしないと言って、おかみさんに泣かれたら、わたしゃ何と言って言いわけをしましょう。私が友達甲斐がねえから平さんを、あんなことにしてしまった、皆さん、わたしゃ平さんに済まない、平さんのおかみさんに済まない、なんとかして下さいよう」
こう言っておいおいと泣いているのは、同じ品川から平吉と一緒に連れ立って、今日の富へ来た友達の一人であります。多分、煙草入を手から辷《すべ》らしたのがこの男でしょう。いい男が手放しで泣くのだが、この場合に限って同情の至りで、ほとんど貰い泣きをしたがるものばかりです。しかし、こう言って泣きつかれても今更、誰がどうしてやろうと言うこともできません。
宇治山田の米友が、うなり出したのはこの時です。
米友が鈴喜の家の裏手の竹藪《たけやぶ》の中をうろついていたのは、それから間もないことでした。
庄屋様に行っても、竜泉寺の住職を煩《わずら》わしても、お詫《わ》びの叶《かな》わないと言われるの
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