木科《かばのきか》の密林も無ければ、松杉科の喬木もあるのではない。ただ薄尾花が一面の原野をなしているのだから、月に乗じて行く白衣の人の影は、そのまま銀のようにかがやいて、野分《のわき》に吹かれて漂うて行くばかりです。けれども、それとても長い間のことでありません。最初は膝のあたりに戯れていた薄尾花も、ようやく胸に達し、ついには人丈《ひとたけ》よりも高くなって、いつしか人影を没してしまいました。月は相変らず天心を西へ少し傾いたところに冴《さ》えてはいるけれども、高原の上は、今や人の影というものはありません。
 しかしながら、あちらの小仏山の頂上に近いところに見えた一点の火は、消えたということはありません。極めて小さい火ではあるけれども、火のあるところには人間のあることは確かです。人間が無ければ、それは野火の卵ですけれども、その小さな火が、少しずつ山を下りて来ることによって、人間の手に操《あやつ》られているということは疑うべくもありません。
 その女は、徳間峠《とくまとうげ》から縁を引いた山の娘の頭《かしら》のお徳であります。どうしてこの女が、真夜中にここを通るのか。蛇滝の参籠堂にその人がい
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