、その時にわかりました。
 野分《のわき》の風が颯《さっ》と吹き渡ると、薄尾花《すすきおばな》が揺れます。薄尾花が揺れて高原が海のように動くと、その波の間を泳いで、白衣の鮮かなのが月に背を向けて、山の頂上に近いところから中腹へ下りて来ることは来るが、果してそれがこの高尾の山へ来るのか、それとも右へ廻って与瀬、上野原の方へ下りて行くのか、そのことはまだわかりません。見ているうちにその火が消えました。消えたのではない、隠れたのでしょう。
 大見晴らしからながめた小仏の全山は、坊主山とは言いながら、それを与瀬へ下りようとする中腹には林があります。多分、火の光はその林へ紛《まぎ》れ込んだものでしょう。
 果してその松林の中を人が通ります。怪しい火と見たのは、その人の手に持っていた提灯《ちょうちん》でありました。その提灯とても、二《ふた》つ引両《ひきりょう》の紋をつけた世間並みの弓張提灯で、後ろには「加」という字が一字記してあるだけです。その提灯を携えて小仏山から下りて、この松林に入って、多分この松林を抜けたらば、また薄尾花《すすきおばな》の野原を、高尾の大見晴らしへ出て山上に詣《もう》でるか、
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