で倒れた時に介抱を受けた山の娘の頭《かしら》のお徳のことが、思い出になるとすれば、思い出にはなります。
お徳は親切な女でした。温和なうちに、かいがいしいところがあって、世話女房としての無類の情味があったことを、今こうして白根の方をながめるにつけて、思い出さないという限りはありません。眼に見えない面影《おもかげ》ながら、それを思い浮べると、肉附のよい、血色の麗《うる》わしい、細い眼に無限の優しみを持った、年増盛りであったことを思いやらないわけにはゆきません。
お徳の面影が思われると、同じような月夜の晩に、月見草の多い庭で砧《きぬた》を打ちながら、
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甲州出がけの吸附煙草《すいつけたばこ》
涙じめりで火がつかぬ
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と得意の俚謡《りよう》をうたったことが耳に残ります。眼の見えた以前の人は暫く措《お》き、眼が見えなくなってから後の人の面影が知りたい。少しでも眼が見えるようになったとしたら、今までの絶望がまた新たなる希望として現われない限りはあるまい。
その時分は荒れ果てて狐狸の棲処《すみか》となっていた蛇滝の参籠堂に、行者が籠りはじめたと麓の
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