あり、平野があり、河川が流れ、海島が漂い、人跡の到らざるところと、人間の最も多く住むところとを、すべてこの高尾の大見晴らしの一眸《いちぼう》のうちに包むことができる。大見晴らしの大きさは、その接触点に立つの大きさであります。
それはさておいて、今、月明を仰いでこの高原の薄原《すすきばら》の中に、ひとり立つ机竜之助はこの時、もう眼があいていました。いな、少なくとも月の微光をながめ得るほどには、眼が開いていなければならないはずです。
すすき尾花の中に西を向いている、たったひとりの人影に、ちょうど、天心に到る十六日の月が隈《くま》なく照しています。
もし、煙霧がなければ白根山の峰つづきが見ゆるあたりに、竜之助はいつまでか立ち尽しているが、風はそよとも吹かず、ただ高原の夜気が水のように流れているだけです。
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鳥も通わぬ白根の山に
月の光りがさすわいな
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多分、その白根の山ふところに心残りがあるのでしょう。
白根の山ふところの奈良田の温泉で、似而非《にせ》の役人を一槍の下に縫いつけたのは、さのみ恨みの残るべきことではありません。
徳間峠
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