免なさんせ、斯様、土足裾取りまして御挨拶失礼さんでござんすが、御免なさんせ、向いまして上《うえ》さんと、今度はじめてのお目通りでござんす、自分、武州は青梅宿、裏宿の七兵衛の一家、若い者八助と発し……」
「ふざけるない、ふざけるない」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]が腹を立てると、また一方の稲叢から、のこのこと出て来た同じようなのが、
「エ、これはがんりき[#「がんりき」に傍点]の親分様でございましたか、御免なさんせ、御賢察の通りしが[#「しが」に傍点]なき者でござんす、後日にお見知り置かれ、行末万端ごじゅっこんに願います。承るところによりますと親分様には……」
「やい、何を言ってやがるんだい、冗談もいいかげんにしねえと撲《なぐ》るぜ」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]が、ぽんぽん言っているのに頓着なく、ひきつづいて稲叢の後ろから二人三人と出て来ては、入り替り立ち替り同じような挨拶を述べるのだから、がんりき[#「がんりき」に傍点]もやりきれない。その言うことを聞いていると挨拶の末には、親分はこれから江戸へ出て面白い仕事をなさるのだそうだが、どうか自分たちを子分にして、その仕事に一口
前へ 次へ
全187ページ中162ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング