ようとは思いもよらないことです。
「まあ、待っておくんなさい」
 ことがあんまり突然だから、がんりき[#「がんりき」に傍点]も改まって同様の挨拶で返答をすることができません。
「御賢察の通りしが[#「しが」に傍点]ない者でござんす、後日にお見知り置かれ、行末万端ごじゅっこんに願います。承りますれば親分様には……」
 こちらは面食っているのに、先方はいよいよ澄まし返って、賭博打の言葉手形を正式に振出して来るのだから堪らない。第一、自分が、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵なるものだということを、この遊び人がどこから聞いて来たろう。様子ありげにここに待伏せて、わざわざ名乗りかけようとするのが、気味が悪いと言えば甚だ悪い。ところがその遊び人は遠慮なく喋り立て、
「親分様には、これより江戸表へおいでなさんして、お仕事をなさるそうに承りましたが、手前、しが[#「しが」に傍点]なき者でござんすが、お手下にお使い下さいますれば有難い仕合せにござんす。手前、生国《しょうごく》と申しまするは、出羽は庄内、酒井左衛門尉の城下十四万石、伊豆屋甚兵衛の娘お柳と発しまして……」
「ばかにしてやがる」
 がん
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