に傍点]の目には、あなた方は怖くはございません、江戸の町奉行や市中の金持は、あなた方を怖がって慄え上るかも知れませんが、私共はそれほど怖いとは思いませんよ。ただ、怖いのはあの犬です、あの黒犬だけには、がんりき[#「がんりき」に傍点]も怖毛《おぞけ》をふるいますよ、あの犬がついている以上は、もの[#「もの」に傍点]になるべきものももの[#「もの」に傍点]になりません」
がんりき[#「がんりき」に傍点]がここで怖ろしがる犬というのは、ムク犬のことです。ムク犬に護られているから、お君というものに、いかなる意味においても一指を加えることのできないのを、南条の前でこぼしているのは、この男相当の愚痴であります。
南条は充分の揶揄気分《からかいきぶん》を以て、
「がんりき[#「がんりき」に傍点]」
「はい」
「貴様、それほどに男自慢なら、左様に怖い思いをせず、もっと面白い獲物《えもの》があるのだが、相談に乗ってみる気はないか」
「ずいぶんやりやしょう」
「器量はなんとも言えないが、格式はあれよりズット上だ」
「なるほど」
「あれは貴様も知っている通り、駒井甚三郎の寵物《かこいもの》だ、駒井は甲州
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