こはありません。
こんな碌《ろく》でもないお通りは、追払ってしまいたいものだと思いました。
この際、南条力の東漂西泊ぶりもまた、かなり忙がしいものと言わなければなりません。
甲州街道筋を出かけるから、やはりこれはお馴染《なじみ》の甲州入りをするものだろうと見ていると、八王子から急に南へ折れました。
ここを南へ行けば、甲州へは行かないで相模《さがみ》へ出るのです。このとき南条の身なりは、ちょっとした無宿の長脇差といったふうをしていることも、いつもとは趣が少し違います。そうして八王子を南へ相原道《あいはらみち》を出かけると、路傍の松の木の蔭から、
「先生」
ぬっと現われたのは、たしかに待伏せをしていたものらしい。これも一癖ありそうな旅の無宿者の風体《ふうてい》です。
「やあ」
「ずいぶんお待ち申しました」
「相変らず早い奴だなあ」
こう言ってうちとけた話ぶりで、穏かならぬ雲行きは、すっかり取去られたものです。
「時に先生、御案内でもございましょうが、あれが相模の大山の阿夫利山《あふりさん》でございますよ、こっちのが丹沢で、相模川があそこを流れているんでございます、甲州では例のそ
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