れがために臨時|停車場《ステーション》が出来たことを思えば、お穴様よりはいっそう由緒《ゆいしょ》があり、来歴がある茂林寺のお狸様のために人間が狂奔するのは、決して笑うべきことではありません。
 ところが、そのお狸様は噂ばかりで、まだ御通行の模様が見えないのに、その前後に、各街道からゾロゾロと町の立ったように多数の乞食が、江戸の市中をめがけて繰込んで行くのが目につきます。鼻の欠けたのや、目のクシャクシャや、跛足《びっこ》や、膝行《いざり》や、膏薬貼《こうやくはり》が、おのおの盛装を凝《こ》らして持つべきものを持ち、哀れっぽい声を振絞って、江戸へ向って繰込むことの体《てい》が世の常ではありません。
「今度、お情け深い江戸の公方様《くぼうさま》が、哀れな俺たちにお救い米を下さる、だからこうしてそのお救い米をいただきに上るんだ」
 かくて毎日、江戸の市中へ繰込む乞食の数が少ないものではありません。
 沿道の商人たちがこぼすまいことか、水戸の中納言様、奥州仙台の陸奥守様、さてこのたび評判の館林《たてばやし》のお狸様、それとは変って、箸も持たぬお菰様《こもさま》のお通りでは、どうも商売がうるおいっ
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