す。
「近いうちに、お狸様がおいでなさるそうですね」
「左様でございます、お近いうちに、お狸様のお通りがあるそうでございます、どこらをお通りになるか、それはまだわかりませんそうでございます」
水戸様街道といわれる松戸の方面や、奥州仙台|陸奥守《むつのかみ》がお通りになるという千住《せんじゅ》の方面から、中仙道の板橋あたりでも、お爺さんやお婆さんが、真面《まがお》になってその噂をしているほどに評判になりました。街道の商人らは、それでももし、お狸様がお通りになるならば、なるべく自分たちの方の街道を通っていただきたいものだと、ひそかに願っていないものはありません。
「お狸様のお通りは一体、いつ頃なんでございましょう」
「まだそのお日取りがきまりませんそうで」
商人たちが心配するのは、そのお通りの日と、お道筋とによって、商品の仕込みをしなければならないのであります。
すでにお狐様があり、またお鷲様《とりさま》があり、ここにお狸様が崇拝されることも当然であります。明治の世になって、東京と横浜の間に一つの穴が発見せられました。それが忽《たちま》ち大穴様となって、京浜の人士を無数にひきよせ、そ
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