ると巌石がある。後ろへすされば一歩にして水です。進退|谷《きわ》まったお銀様は、ついに脇差を振り上げて、勢い込んで追いかけて来た神尾主膳の面《かお》をのぞんで、その脇差を投げつけました。
 その覘《ねら》いは過《あやま》たず、神尾の面上へ飛んで来たから、狂乱の神尾も落ちかかる刃を払わずにはおられません。それを槍の柄で払おうとして、あぶない足許が一層あぶなくなって、ついに堪らず※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》と尻餅をついたのが、お銀様にとっては命の親でありました。
 この僅かの間を利用してお銀様は、池の端《はた》を通って、橋を飛び越えて、一息に本邸の縁側へ飛び上って、障子を蹴開いて奥へ逃げ込みました。
 つづいて起き上った神尾主膳は、同じように池を飛び越えて縁の上へはね上ったが、ここではお銀様が広い母屋のいずれの部屋へ逃げ込んで、いずれの方角から抜け出したかということは更にわかりません。
 主膳がただ何事をか、しきりに怒号して間毎間毎を荒し廻っている音声が、外で聞くとものすごいばかりです。いつまでたっても例の槍ははなさず、間毎間毎を荒し廻りながら、襖《ふすま》といわ
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