そうです。当の敵は変っても、苦しむことに変りはない。苦しめて興の多いことにも変りはないのだから、神尾は一層の惨忍なる好奇を振い起して、お銀様に槍を突掛け突掛けて、更に萎《ひる》む色がありません。
 梅の木の周囲をグルグル廻って必死に逃げているけれど、前に言う通り狂っているとは言い条、神尾の槍は相当の覚えのある槍であって、それに油を差した兇暴性が加わっているのだから、槍の筋は存外狂わず、その精力も容易には衰えません。お銀様は命からがら逃げ廻っているうちに、帯がほどけました。ほどけた帯を踏んで危うく倒れようとして帯に手をやった時、覚えずその手に触れたのが、土蔵の二階から駆け下りる時に手に触れた脇差であります。お銀様は帯をかいこむと一緒に、その脇差を抜き放ちました。片手では帯をからみながら、片手でその脇差を構えたのは多分、神尾の槍をあしらうつもりでありましょう。
 こうして見るとお銀様には、どうも多少、武術の心得があるようです。女軽業の親方のお角ほどの女が、お銀様を怖れるのは、一つはお銀様の傍には大抵の時には脇差がひきつけてあって、話の調子によっては、いつそれが鞘走《さやばし》るか知れないよ
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