このごろ、毎夜のように、この屋敷へ狸が入り込むな」
「狸? そんなことはござるまい」
「夜中に眼が醒《さ》めると、狸の足音がする、耳を澄まして聞いていると、離れの方へ忍んで行くようだ、おれは、二晩までその足音を聞いた、この調子だと今夜あたりもやって来るぜ、取捉まえてやろうと思うが、足音だけが聞えて、身体が利《き》かぬ」
「それは穏かでない、いったい、狸の足音というのを、どうして大将は聞き分けた、狸なら狸のように、もし人間であったら人間のように、ずいぶん打捨《うっちゃ》っちゃおけねえ」
と言って福村は、今更のように離れの方を見ました。離れには例のお絹がいます。
 福村は気をつけていたけれども、その晩は狸の足音は聞えない代りに、遠からぬところで狸囃子《たぬきばやし》の音が起るのを聞きました。
 その翌日の晩もまた、お囃子の音が賑やかに宵のうちから響き出しました。この屋敷の界隈《かいわい》でも、例の踊りが流行《はや》り出したものです。
「うるさい百姓共だ、誰か行ってあれをさしとめて来い」
 神尾主膳は病床のうちで、そのお囃子を焦《じ》れったがったけれども、ほかの連中はかえってそのお囃子で浮き
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