えども、在るべからざるところに在り、発すべからざるところに発したのは、どうしても由々《ゆゆ》しき出来事といわねばならぬ。
 この出来事のために、集まっている人々の日頃の嗜《たしな》みというものが、露骨に現わされたことは、一種の試験といえば試験のようなものです。前に言ったような余裕を見せたのは、さすがに見苦しくもありませんでしたが、中には正銘に狼狽《ろうばい》して四つん這《ば》いの形になった者もないではありません。殊に道庵先生の如きは、たしかにそれまで居眠りをしていたものと見えて、その響きが起るや否や脆《もろ》くもひっくり返り、それも一つで済むのを、三ツ四ツ一度に宙返りをして、廊下の隅へころがり出して腰を抜かした形などは醜態です。最初に警告を与えた弁信法師は、爆発起ると見るや衣の袖に頭を包んで、その場に突伏してしまいました。
 見上げたのは、木崎原の一曲を弾じている琵琶の老手で、この不時の出来事のために、撥《ばち》の捌《さば》きが少しも狂わず、歌いかけた歌の詞《ことば》に滞りがあるでもありません。大風の吹き去ったあとの枯野に端坐している心持で、従容《しょうよう》としてその一曲を弾じつづけ
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