きと共にこの一室が、裂けて飛んだかと思われる家鳴《やなり》震動です。
 静粛な弾曲の半ばに思い設けぬこの出来事は、一座のすべてを驚かさないわけにはゆきません。少なくとも三十余人は集まっていた勇士豪傑の驚きぶりが、またそれぞれ個性を発揮しているところが面白いと言えば面白いものです。或る者は二三間飛び退いて太刀を抜かんと構えました。或る者は下へつくばる[#「つくばる」に傍点]ようにして、身を沈めながら敵の呼吸を見るような形であります。或る者はまた、列座のうちの少年をかこうて、身を以て降りかかる災難に当ろうとするもあります。
 けれども、誰ひとり、この思い設けぬ出来事の原因を知ったものはありません。謀叛人《むほんにん》がこの屋敷へきりこんだというわけでもなく、また謀叛が発覚して御用の手が混み入ったというわけでもなく、ただ一発の弾丸が――それも無論、大砲の丸《たま》ではなく小銃の弾丸が、つまり火鉢にかけた薬鑵《やかん》の下から爆発して、この場の空気をかくの如く破りました。
 さりとて人命には露ほどの怪我はなく、犠牲になったものと言えば火鉢の薬鑵があるのみです。けれどもたとえ、小銃の弾丸一発とい
前へ 次へ
全187ページ中119ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング