て通り過ぎる人もあります。屋敷のうちにいる娘たちも、思いがけなくその音を聞いて、珍しがって耳を傾けました。その琵琶の音は、正銘の薩摩琵琶の音でありますけれども、聞く人は、何だかわからないと言っている人が多いようです。
 外に立って聞いている人の評判を聞くと、はじめは三味線だろうと言いました。やがて三味線ではない、琴だと言い出すものもありました。琴でもないと打消す者もありました。琴の曲弾《きょくひ》きをしているのではないかと附け加えるものもあったけれども、これが琵琶だと断言したものは一人もありません。
「皆さん、御存じでもございましょうが、あれは薩摩の国で流行《はや》ります地神盲僧《ちじんもうそう》の琵琶のうちの、横琵琶というものでございます。どうして私がそれを知っているかと申しますと、私は平家琵琶を少しばかり心得ているのでございます。御承知の通り琵琶にもいろいろございまして、妙音の琵琶、平家の琵琶、荒神の琵琶、地神盲僧の琵琶……名はいろいろでございましても、源《もと》は一つでございます」
 寄ってたかって聞いている連中は、思いがけないところから一人の小坊主が飛び出して、問われもしない説
前へ 次へ
全187ページ中110ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング