、ただ笛を携えて、しきりにながめているばかりです。
さて、ここでひとつ笛を吹いたら、たしかにあの人たちを驚かすことはできると思いました。人を驚かすために吹きに来たのではなく、人を避けんがために吹きに来たのだけれども、こうなってみると茂太郎は、踊っている大尽の家の綺羅を尽した紳士淑女のために、吹いてやりたい心を起しました。とりあえず何を吹いてやろうと、歌口をしめしながら、暫く小首を傾けておりました。
何を吹き出そうかと思案している茂太郎の目の前を、二羽の鳩が飛んで行きます。それを見ると茂太郎は、急に笛を取り直して、ヒューヒョロロと吹きました。
その笛の音につれて、不思議なことに、飛んで行こうとした二羽の鳩が、急に翼を翻して櫓《やぐら》の上へ戻って来ました。
続いて茂太郎が笛を吹くと、どこにいたともない多数の鳩が、土蔵の鉢巻の裏や、屋根の瓦の下や、軒の間から姿を現わして、茂太郎の立っている櫓の上へと集まって来るのが、いよいよ不思議です。
茂太郎は、足拍子面白く、なお吹きつづけていると、集まった鳩が、左右に飛び惑うて、さながら踊りをおどるが如き形が妙です。そうして或る者は茂太郎の肩
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