ち分があるのだから、不動様を閻魔様《えんまさま》の許《もと》に頼むわけにはゆくまい。不動様は不動堂に限ると思いました。で、住職か或いは堂守に、事情を言いこしらえて納めてしまえばイヤとは言うまい。イヤと言えば抛《ほう》り込んで逃げてしまおう、とまで決心して、ようやく人通りのあるところへ出た時に、この辺にしかるべき不動堂はないものかと人に尋ねました。その人が、下総の成田山の出張所が、御府内のどこそこにあるということをよく教えて聞かせました。しかし米友は、江戸の市中まで持って帰りたくはないのだから、江戸に近い田舎でしかるべき不動様はないかというようなことを尋ねると、それはまた滝の川の不動様と、目黒の不動様だろうという返事でありました。
その二つの不動様のうち、どれが近いかと尋ねると、ここからでは目黒の方が、ずっと近いということでしたから米友は、よし、それでは目黒の不動にしようと、その方角を、よくよく聞き取ってそちらに足を向けました。
米友が不動尊の画像をかついで、目黒不動の境内《けいだい》まで来て見ると、そこが大変に賑やかで、お祭か縁日かであるらしい。あんまり賑やかで、かえってきまりが悪
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