いうことを知った以上は、和尚として儼乎《げんこ》たる処置を取ることでありましょう。
この晩、右の若い雲水たちは、またも垣根を越えはじめました。垣根を越える時には、留守の当番に当った者が、垣根の下に立つのであります。外へ迷い出す者は、その留守の当番に当った者の肩を踏台にして、垣根を乗り越えることになっているのであります。もしその踏台の背が低い時には、肩でなく頭へ足を載せて乗り越えるのであります。今宵またその通りにして、五人の若い雲水が垣根を乗り越えました。踏台になった雲水は、明晩は自分の当番だということを楽しみにして帰り、その五人の者の寝床を、さも本物であるように拵《こしら》えておきました。そうして自分は蒲団《ふとん》の中に潜り込んで休みながら、こんなことを考えていました。
「このごろ、向岳寺の尼寺へ、素敵な別嬪《べっぴん》が来たとか来ないとか言って仲間の者共が騒いでいるが、ほんとに来たものだか来ないものだか、その辺はとんと疑問じゃ、よしよし明晩は行って、おれが見届けてやる、見届けたところで、どうしようというわけではない、俗人どものように張ってみようとか、振られて帰ろうとかいうような、
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