悟空がたずねました。
「俺の親類は下谷にあるんでございます」
八戒が答える。
「下谷? 俺らもその下谷へ訪ねて行こうと思うんだが、下谷はどこだい」
悟空が再びたずねました。
「下谷は長者町というところなんでございますよ」
八戒は念入りに再び答える。
「おや、下谷の長者町。俺らのこれから尋ねて行こうというところもやっぱりその下谷の長者町なんだが」
「そうでございますか、お前さんもその長者町に親類がおありなさるんでございますか」
「親類というわけじゃねえんだけれども、ちっとばかり世話になった人があるんだ」
「そうでございますか。そうしてお前さんの訪ねておいでなさるお家の商売は何でございますね」
「商売は医者だ」
「おやおや、俺の親類もお医者さんでございますよ」
「何だって。お前も同じ町内の同じお医者さん、それで名は何というお医者さんだい」
「道庵先生」
「道庵先生だって」
「そうでございますよ」
「俺らの尋ねて行くのもその道庵先生の許《とこ》なんだ」
与八と米友とは偶然、その訪ねようとする目的の家を一つにしました。与八と米友はここで初対面のようでありましたけれど、実は初対面ではな
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