手に取ることにおいて、人の加勢を願おうとは思わないのであります。それだから人の声がしたからとて、それに助けを得たとは思われたくないのであります。人が来ようが来まいが、こうなった上は一匹残らずこの傲慢不遜《ごうまんふそん》な猿どもを退治てやらなければ、虫がおさまらないと思っているのであります。ただどこから形《かた》をつけていいか、余りにその数が多いことによって、戸惑いをしているのに過ぎないのでありました。
「ホーイホイ」
 その声は相変らず、遠くもなく近くもなく、纏《まと》まって響いて来るのであります。猿どもは米友を睨めると共に、しきりにその声のする方を気にしているようです。
 そのうちにどうしたものか、猿どもの陣形が忽ち崩れ出しました。ひとたび陣形が崩れ出すと共に、畜生の浅ましさであろう、今までの擬勢が一時に摧《くだ》けて、我勝ちに逃げ出しはじめました。その崩れたのと逃げ足との、あまりに慌《あわただ》しいのは、米友をして呆気《あっけ》に取らせるほどでありました。
「ホーイホイ」
 その声が敢て近寄ったというわけでもありませんのに。だから米友も少しく拍子抜けの体《てい》でいた時分に、やや
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