単身を以てすれば猿に劣らぬ俊敏な米友も、こう多数を相手にしては、ドレを目当に懲《こ》らしていいか、わからないのであります。それで米友は歯噛《はが》みをしました。
 かわいそうに米友も、畜類を相手にして立竦《たちすく》んでしまわねばならなくなりました。
 この時、どこからともなく、
「ホーイホイ」
という声。猿どもがキャッキャッと言っている中で、その声は、はじめは米友の耳へ入りませんでした。つづいて、
「ホーイホイ」
という声。それが耳に入ったのは米友より先に、米友を取囲んだ猿どもであります。
「ホーイホイ」
 その時に、米友も風の声かと思いました。
「ホーイホイ」
 人間の声であることは紛れもないのであります。人ならば二三十人の声でありましょう。それが何人《なにびと》であって何のためにする声だかわかりません。こちらへ来る人の声であるか、またはどこかへ一団《ひとかたま》りになっている人々の声であるかもよくわかりませんでしたが、
「ホーイホイ」
という声がようやく聞え出して来た時に猿どもが、遽《にわ》かにどよめき出したことがよくわかります。
 米友の気象としては、敢《あえ》てこの猿どもを相
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