の傍へ猿どもを寄せつけないのであったけれど、この騒ぎと猿どもの絶叫を聞いて、附近の山々谷々から続々と集まって来る猿の数の夥《おびただ》しいことと、その面色《めんしょく》の穏かならぬことにはいよいよ驚かないわけにはゆかないのであります。
「こうなりゃ、一匹残らず突殺してやるから覚えていやがれ」
米友はとうとうその杖槍に、しかと穂先を穿《は》めました。それを下段に構えて、当るところのものを幸い、一匹残らず槍玉に揚げて、峠の谷を埋めてやろうと決心しました。
多勢を恃《たの》む猿どもはいよいよ驕慢《きょうまん》でありました。けれど怜悧《れいり》な彼等は、いつも相手の実力を見るのに鋭敏でありました。ですから米友はギラギラ光る穂先を杖の先にすげて、一匹残らずという手強い決心をしたのを見て取って、急いで木の上や、堂の上や、作事小屋の上へ飛び上り、そこから眼を丸くし、歯を剥き出して、米友を睨めてキャッキャッと叫んでいます。
満山の猿は、米友一人を遠巻きに押取囲《おっとりかこ》んでしまいました。
米友が少しでも隙を見せれば、彼等は一度にドッと押包んで、取って食おうというような形勢であります。
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