現わしていることを見て取らないわけにはゆきませんでした。
「この奴ら、俺《おい》らに手向えをするつもりだな。こん畜生」
 正直な米友はまた、この猿どもの不遜な挙動を憎まないわけにはゆかないのであります。人の物を盗んでおきながら、その懲《こ》らしめを怖れずにかえって反抗し来《きた》るとは、身の程知らぬ猿どもだと思ってムキになりました。
 それで米友は、抑えつけていた大猿の頭を、一つガンと食《くら》わせました。大猿はギューと言って息が絶えた様子であります。その時に猛《たけ》り立った群猿は、八方から一時に米友をめがけて飛びかかりました。
「猪口才《ちょこざい》な、こん畜生め」
 米友はその大猿を片手で掴んで群猿の中へ投げ込んで、例の手慣れた杖槍を押取《おっと》りました。
「こいつら!」
 その杖槍を縦横に打振ると、猿どもはバタバタとひっくり返ったり飛び散ったりするが、直ぐにまたその後から後から後詰《ごづめ》が出で来るのであります。或る者は木の上へ登ってそこから木の枝を投げおろしました。或る者は妙見の社や作事小屋へ登って石ころの雨を降らせました。米友はその杖槍をりゅうりゅうと揮《ふる》って、そ
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