の大樹の梢にたかっている一群の動物は猿であります。その猿どもが、大切の胡麻のついた握り飯を持って、それを一口食っては米友に見せ、二口食っては米友に見せているのであります。それからほかの猿はまた尻を米友の方へ向けてバタバタ叩いたり、木の枝を揺《ゆす》ったりして、しきりに米友に向って挑戦をするらしいのであります。
「畜生!」
 米友は歯噛《はがみ》をしました。僅かの間に畜生どもにばかにされたかと思うと、米友の気象ではたまらないのであります。直ちに手慣れた杖を取り上げましたけれど、不幸にして彼等はあまり高いところにいるのであります。さすが手練の米友の槍も、距離においてどうすることもできません。
「よし、こん畜生!」
 米友は杖を捨てて石を拾いました。拾った時、石はすでに空《くう》を飛んでいました。
 その覘《ねら》いは過つことなく、米友が石を拾ったかと思うと、ほとんど一緒に、
「キャッ」
と叫ぶ声が樹の上でして、※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》という音が米友の足許でしました。
「こん畜生」
 その時、米友は一匹の大猿の首筋を後ろからギュウと抑えて、膝の下へ組み敷きました
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