い机竜之助は、日当りのよいことが何より結構で、お銀様が風景に見恍《みと》れている時に、竜之助はよい気持であたりの芝生の上へ腰を卸して、日の光を真面《まとも》に浴びている。
「あなた、そこはお墓でございますよ」
 お銀様に言われて、そうかと思ったけれども、敢《あえ》て立とうとはしません。
 竜之助の腰を卸していたところは墓に違いありません。ほかの墓とは別に、孤島《はなれじま》のように少しばかり土を盛り上げたところに、無縫塔《むほうとう》のような形をした高さ一尺ばかりの石が一つ置いてあるだけでありました。その前には、竹の花立があったけれど、誰も香花《こうげ》を手向《たむ》けた様子は見えず、腐りかけた雨水がいっぱいに溜っているだけです。
 竜之助が動かないから、お銀様もまた、その近いところへ蹲《うずく》まりました。ここは誰も人の来る憂えのないところです。天の日は二人ばかりのために照らし、地の上は二人ばかりを載せているもののようです。
 あたりの林も静かでありました。丸腰で来た竜之助は、ついにそこへゴロリと横になって肱枕《ひじまくら》をしてしまいました。竜之助の横になって肱枕をしたその頭のあた
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