しながら、お銀様は自説の誤らないことを保証するために、行燈の光までその位牌を持ち出しました。
「確かに悪女? そうして裏には……」
竜之助に言われて、お銀様が位牌の裏を返して見ると、そこには「二十一、酉《とり》の女」と記してありました。
その翌朝、竜之助は、お銀様に手を引かれて、小泉家の裏山へ上りました。
径《こみち》を辿《たど》って丘陵の上まで来ると、そこに思いがけなく墓地がありました。林に囲まれた芝地の広い間には、多くの石塔といくつかの土饅頭《どまんじゅう》が築かれてありました。墓地ではあったけれども、そこは日当りがよくて眺めがよい。そこから眺めると目の下に、笛吹川沿岸の峡東《こうとう》の村々が手に取るように見えます。その笛吹川沿岸の村々を隔てて、甲武信《こぶし》ケ岳《たけ》から例の大菩薩嶺、小金沢、笹子、御坂《みさか》、富士の方までが、前面に大屏風《おおびょうぶ》をめぐらしたように重なっています。それらの山々は雲を被《かぶ》っているのもあれば、雪をいただいているのもあります。
お銀様は、その山岳の重畳と風景の展望に、心を躍らせて眺め入りました。
山岳にも河川にも用のな
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