りがちょうど、無縫塔の形をした石塔のあるところであります。
 それだから竜之助は、墓を枕にして寝ているもののようです。寝ている竜之助はそれをなんとも思ってはいないらしいが、傍で見たお銀様は、快い形と見ることができません。この人に墓を枕にして眠らせるということが、好ましいことではありません。それとも知らずに竜之助は、
「こんなところで死にたいな」
と言いました。けれどもそれは嘘《うそ》です。竜之助がこう言ったのは、それは、あんまり日の当りがよくて、そこに足腰をゆるゆると伸ばした心持が譬え様がないから、そう言ったのだけれど、お銀様は、やはりその言葉を不吉の意味があるもののように聞いて、
「石になっては詰《つま》りませぬ」
 お銀様はこう言いながら、ほとんど二人並んで寝るように片手を伸べて、竜之助の頭の石塔の石を撫《な》でました。石を撫でながら、なにげなく石の裏を見ると、そこに、「二十一、酉《とり》の女の墓」と小さく刻んであるのが、図《はか》らず眼に触れてゾッとしました。その気になって見れば、この石塔の前面には何の文字もなくて、裏にだけ遠慮をしたもののように「二十一、酉の女の墓」と刻んである
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