なりませぬ故、これからさしとめまする」
お絹の口から、キッパリとさしとめの言葉が出ました。温順なお松も、こんなにキッパリと言われてみると、はい、と言いきることはできませんでした。
「あのお邸には、わたしのお友達がおりまするものでございますから……」
「そのお友達がいけませぬ、そのお友達とお前が附合っていると、お前の身の上ばかりではない、わたしの身の上も、こちらの殿様のお身の上までも汚《けが》れるようなことが出来まする、それ故、今までのことはぜひもないが、これからはプッツリと縁を切って、途中で会っても口を利《き》かないようにしなければなりませぬ。わたしがこういってお前をさしとめるわけは、もう少したてば、きっとわかって参ります、なるほど危ないことであったと、お前はあとから気がついてくるでありましょう。わたしは意地悪くお前にこんなことを言うのではありませぬ」
その言いつけに対しても申し分はあるけれども、お松はそれをかれこれと気に留めていられないほど、外のことが気になるのであります。
それにも拘らず、お師匠様なる人は相変らず悠長に構えて、別に差当っての用事を頼むのでなく、意見を加えがてら
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