「本気でそういうことをおっしゃるのでございますか」
「もちろん本気、世間には位を欲しがって生きている奴がある、金を貯めたいから生きている奴がある、おれは人が斬りたいから生きているのだ」
「ああ、神も仏もない世の中、それで生きて行かれるならば……」
「神や仏、そんなものが有るか無いか、拙者は知らん、ちょっと水が出たからとて百人千人はブン流されるほどの人の命じゃ、疫病神《やくびょうがみ》が出て采配《さいはい》を一つ振れば、五万十万の要《い》らない命が直ぐにそこへ集まるではないか、これからの拙者が一日に一人ずつ斬ってみたからとて知れたものじゃ」
「おお怖ろしい」
「真実、それが怖ろしければ、いまのうちにここを去るがよい」
「それでも、こうなった上は……」
「こうなった上はぜひがないと知ったならば、お前は、拙者のすることを黙って見ているがよい」
「ああ、わたしはいっそ、あなたにここで殺されてしまいたい」
「いつかそういう時もあろう、その帳面のいちばん終《しま》いへ、お前の名を書いて歳を入れずにおくがよい」
「ああ、わたしは地獄へ引き落されて行くのでございます」
「地獄の道づれがいやか」
「否《
前へ
次へ
全185ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング