籠がこの宿を尋常に出かけた前に、まだ暗いうちに同じくこの宿を出でて、東へ向って下った二人の旅人がありました。
前のは旅慣れた片手の無い男で、あとに従ったのは前髪の女にも見まほしい美少年。前のはがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵で、後のは昨日三番の室で関所の抜け道を問うた少年であります。
兵馬お君の一行が、本街道の関所のあるところを大手を振って通るのに、がんりき[#「がんりき」に傍点]と美少年は裏へ廻って、関所のない抜け道を通ることが違っているのであります。
本道を通ることは例外で、抜け道を通ることのみがその本職であった百蔵は、こんなことには心得たものです。
女にも見まほしき美少年は、足を痛めたとはいうけれど、やはり旅には慣れているもののようです。しかし、両刀の重味がどうにも身にこたえるようで、それを抱えるようにして、がんりき[#「がんりき」に傍点]のあとをついて行くと、
「これでもこれ、お関所のあるべきところを無いことにして通るんでございますから、表向きにむずかしく言えばお関所破りになるのでございますね、お関所破りの罪を表向きにやかましく詮議《せんぎ》すれば、そのお関所のあ
前へ
次へ
全185ページ中147ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング