るところで磔刑《はりつけ》になるのが御定法《ごじょうほう》ですから、あなた様も、わっしどもも、御定法通りにいえばこれで磔刑ものなんでございますよ」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]の言うことは少年をして、薄気味の悪い心持を起させないわけにはゆきません。がんりき[#「がんりき」に傍点]はそれをこともなげに言って、少年が気にかける様子を尻目にかけて、
「しかし、お役人とても、そんなに野暮《やぼ》な仕打《しうち》ばかりはございません、こんなことでいちいちお関所破りをつかまえて、磔刑にかけた日には、関所の廻りは磔刑柱の林になってしまいます、旅に慣れたわっしどものようなものでなくても土地に近い人などは、わざわざ関所を通っていちいち御挨拶を申し上げてもおられないから、その抜け道や裏道を突っ切ってしまうのでございます。そんなものは、笑ってお眼こぼしでございます。それでも、こうして渡って歩くうちに、どうかして間違ってお上《かみ》の手で調べられた時には、こんなふうに言い抜けをするんでございますね、実はあの勝沼の町から出まして、駒飼のお関所へかかろうと思う途中で、ついつい道を取違えて山の中へ入ってしまい
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