」
「そうかね、お前さんかえ。今、馬方が来ての話に二人半食い殺されたというから、その半というのはどういうわけだと聞いたら、それは食われ損なって逃げた人があるんだと言っていた、それがお前さんとは気がつかなかった。何しろ命拾いをしてよかったね」
「まあよかったというものだ。大丈夫かえ、誰にも気取《けど》られるようなことはありゃしめえな」
「大丈夫。まあその合羽をお出し」
お角はがんりき[#「がんりき」に傍点]の手から、雨に濡れた合羽を受取って、そっと裏の方から竿にかけました。
「やれやれ」
旅装を取ったがんりき[#「がんりき」に傍点]は火鉢の前へ坐りました。お角もまた火鉢によりかかりました。それから、ひそひそ話で、時々|目面《めがお》で笑ったり睨めたりして、かなり永いこと話が続きましたが、
「それじゃ、今夜は泊り込むとしよう、だが明日の朝は、また鳥沢まで行かなくちゃあならねえのだ」
「ほんとうに落着かない人だ、いくら足が自慢だからと言って、そうして飛び廻ってばかりしているのも因果な話」
「どうも仕方がねえや、こうしてせわしなく出来ている身体だ」
「あ、そりゃそうとお前さん[#「お前さん
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