めました。
「はい」
「ちとお尋ね致したいが、あの峠へかかるまでにお関所がありましたな」
「はい、駒飼《こまかい》と申すところにお関所がござりまする」
「あの、その関所は、手形が無くては通してくれまいか」
「それはあなた様、お関所にはどちらにもお関所の御規則がありまして」
「それをどうぞして、抜けて通る路はあるまいか」
「あの、お関所の前をお通りなされずに?」
「粗忽千万《そこつせんばん》のことながら、その手形というものを途中で失うて困難の身の上、何と御内儀、よい知恵はござるまいか」
美少年は一生懸命でこれだけのことを言いました。よほどの勇気をもってこの宿の主婦と見たお角にこのことを打明けて、相談をしてみる気になったものであります。
しかし、これだけの相談として見れば、それだけの相談だけれど、表向きに言えば、お関所破りの相談であります。どうしたらお関所破りができるか教えてくれというようなものであります。お角はこの少年の面《かお》を篤《とく》と見ないわけにはゆきませんでした。
「それはそれはお困りのことでござりましょう、ほかのことと違いまして」
お角も、さすがに即答がなり兼ねるらし
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