入った和尚の腕前。拙者は近藤勇、いざお相手を仕《つかまつ》る」
というわけで、二間柄の槍を執って近藤勇が、道場の真中に立ち出でるということになりました。
それを聞くと、拳骨和尚は平伏して、
「これはこれは、先生が名に負う近藤勇殿でござったか、鬼神と鳴りひびく近藤先生のお名前、世捨人《よすてびと》の山僧までも承り奉る、いかで先生のお相手がつとまるべき、許させ給え」
と殊勝な御辞退ぶりです。
しかし、近藤勇ともあるべきものが、それで承知すべきはずがなく、今は辞するに由《よし》なくて、和尚は、また前の鉄如意を取って立ち上るという段取りになりますと、その時に近藤が、
「およそ武術の勝負には、それぞれの器《うつわ》がある、貴僧もその如意を捨てて、竹刀《しない》にあれ、木刀にあれ、好むところを持って立たるるがよろしかろう」
と言われて、和尚は首を振り、
「我は僧侶の身であるから、あながちに武器を取りたいとも思い申さぬ、やはりこれでお相手を仕《つかまつ》りたい」
鉄如意を離さなかったけれど、近藤勇は頑《がん》としてきかなかった。ぜひ、他の得物《えもの》を取れと勧めたから和尚は、
「しからば」
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