拳骨和尚が京都へ出た時分に、壬生《みぶ》の新撰組を訪ねて、近藤勇《こんどういさみ》を驚かした話はそのころ有名な話であります。
或る時、壬生の新撰組の屯《たむろ》の前へ、みすぼらしい坊主が、一蓋《いちがい》の檜木笠《ひのきがさ》を被って、手に鉄如意《てつにょい》を携えてやって来て、新撰組の浪士たちが武術を練っている道場を、武者窓から覗《のぞ》いていました。
出家とは言いながら、あまり無遠慮な覗き方であったから、忽《たちま》ち浪士たちに咎《とが》められてしまいました。
「我々の剣術を覗いて見るくらいでは、さだめてその心得があるのであろう、とにかく、道場の中へ入って一太刀合せてみろ」
強《し》いて和尚を、道場の中へ引張り込んでしまいました。
もとより名代《なだい》の壬生浪人のことですから、面白半分にこの坊主をいましめてくれようと、我勝ちに得物《えもの》を取って立ち向うのを、拳骨和尚は噪《さわ》げる色もなく、携えた鉄如意を振《ふる》って、瞬《またた》く間《ま》に数十人を叩き伏せてしまった。
この時、上座にいたのが、隊長の近藤勇でありました。この体《てい》を見て、
「これはこれは、驚き
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