らをしました。そのいたずらは鐘楼から釣鐘を下ろして、それを山門の外へ持って行って打捨《うっちゃ》ったのであります。翌《あく》る朝になって寺の坊さんたちが驚きました。誰がこんないたずらをしたか知らないけれども、とにかく、元の通りに鐘楼へ持って行ってかけねばならぬと、大勢して騒いでいるとなにくわぬ面《かお》をしてそこへ現われた拳骨和尚は、
「僅か一つの鐘を、そんなに大勢して騒いでも仕方がないではないか」
と言って、からからと笑いました。
「僅か一つと言うけれど、その一つが釣鐘だ、笑っていないで何とか知恵があったら知恵を貸せ」
「それはお安い御用よ、おれに茶飯を振舞いさえすれば、一人で片づけてやる」
この和尚の力のあることは坊さんたちがみんな聞いていたから、ともかく、茶飯を食わせてみようではないかということになって、充分に茶飯を振舞うと、和尚は軽々とその鐘を差し上げて、元の通り鐘楼の上へ持って来てかけてしまった。
その後、たびたびこの釣鐘が山門の外まで動き出すので、
「さては、あの物外《もつがい》めが、茶飯を食いたいばかりに悪戯《いたずら》をする」
一山の者が大笑いをしました。
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