せないことに思いました。
「この背中にある女をそこへつれて行って、沈めにかけるのじゃ」
「沈めにかけるとは?」
「水の中へブクブクと沈めて、殺してしまうのだ、オホホ」
「エッ」
なんと下らないことを言う坊主ではありませんか。兵馬が驚くのも無理はありません。それを坊主は平気でオホホと笑い、
「何も驚くことはない、昔から例のあることじゃ、この石和川で禁断の殺生《せっしょう》したために、生きながら沈めにかけられた鵜飼《うかい》の話が謡《うたい》の中にもあるわい。殺生も悪いけれど邪淫《じゃいん》もよくない、女という奴、十悪と五障の身を持ちながら、あたら男を迷わして無限の魔道へ引張り込む、その罪は禁断の場所で鵜を使って雑魚《ざこ》を捕ったどころの罪ではない。一人の女を生かしておくとこの後、好い男が幾人|創物《きずもの》になるか知れたものではない、それ故に、女と見たら取捉《とっつか》まえて沈めにかけておくのがよろしい。お前さんに手伝ってもらって、この女を沈めにかけようというのはそれだ、なまじいの慈悲心を出して命乞いなどをしなさんなよ、オホホ」
「老和尚、またしても冗談《じょうだん》を」
「冗談で
前へ
次へ
全185ページ中125ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング