へ肩を入れて、ウンと担いでしまいました。
 いくら女一人の身ではあるといえ、それを片棒で、一人で担いでしまうにはかなりの力がなければできないことであります。兵馬は、やはり呆気《あっけ》に取られていると、和尚は、両掛けの荷物でもぶらさげた気取りで、先に立ってサッサと歩き出しました。
 しかもその歩き出す方向が、今まで来た八幡村へ行く方向とはまるっきり違って、東の方――またしても亀甲橋を渡り直して、もと来た方へ帰って行くのであります。初めは常の足どりで歩いていたのが、ようやく早足になりはじめます。
 兵馬は後《おく》れじと和尚について走りました。あまりのことに、兵馬は和尚がどこへ行こうとするのだか尋ねる気にもなりません。
 しかしながら和尚は、恵林寺へ帰るのでもなし、また尼寺へ立戻ろうとするのでもないらしく、甲州街道をどうやら勝沼の方まで出かけようとするらしいから、兵馬は怺《こら》えきれないで、
「老和尚、いったいどこへおいでなさるつもり」
と尋ねました。
「甲斐の国|石和《いさわ》川まで」
「石和川というのは?」
「この川が石和川じゃ」
「その石和川へ何しに」
 兵馬は、いよいよ解《げ》
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